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ミャンマーとカレン族とランボーの話【前編】

「お前たちが行っても何も変わらない、帰れ」

映画「ランボー/最後の戦場」の中で主人公のジョン・ランボーが、“村人の暮らしを変えることができる”と、ボランティアでカレン族の支援に行くという汎アジア牧師会の医師たち慈善活動家に向かって言った台詞。この映画の冒頭でミャンマーの軍事政権がキリスト教を信仰する少数民族のカレン族を凌虐し、土地や天然資源を略奪しているとうシーンが実写でかなり長い時間映されていた。つまりこの映画は限りなくフィクションに近いノンフィクション映画だということ。事実、2008年当時、この映画の主演・監督・脚本を手掛けたシルベスター・スタローン自身が雑誌の単独インタビューの中で、戦闘シーンは、すべてドキュメンタリー映像に収められた実際の暴力を基に作られていると語っている。

ここ最近、世界中で盛んに報道されている、ミャンマーの少数民族でイスラム教を信仰する「ロヒンギャ」に対する虐殺や迫害の疑惑とオーバーラップする。もちろんミャンマー政府は調査結果を基に疑惑を否定しているが、例え、事実として民族浄化が行われていたとしても肯定するわけはないだろう。それでもロヒンギャの問題がカレン族の時と比べて唯一の救いは、世界中のメディアが報道し、国連を動かし、当事者であるミャンマー政府への圧力となっていることだと思う。

一方カレン族に対するミャンマー軍事政権の迫害は、世界の内戦では最も長く、65年もの長きにわたって続いていた。しかし世界で目にする報道は中東で起こる問題ばかりで、ミャンマーの内戦についてはほとんど触れられることは無く「忘れられた内線」とも言われて来た。娯楽映画と実際に起きている問題を同じように語るなと、お叱りを受けるかも知れない。しかし「忘れられた内線」であったミャンマー軍事政権によるカレン族への迫害の実態を、シルベスター・スタローンはこの映画を通して世界に訴えかけたのも事実だし、少なからずこの映画が2012年1月12日の歴史的な停戦合意に影響を与えたのは間違いないと思う。

ここまで読んで、また、実際に映画「ランボー/最後の戦場」を観た人は、ミャンマーの軍事政権が悪玉で、少数民族を助けようとするNGOやランボー達(つまりアメリカ)が善玉だと感じてしまうのではないだろうか。しかしそれほど物事は単純じゃなく、アメリカ側からの目線で、アメリカの都合で描かれているという事も忘れないでほしい。もちろん虐殺や迫害行為など何があっても許されることではない。ただ少数民族との反政府武力闘争の問題は、この国の長い歴史において、イギリス統治時代の植民地政策の影響が大きい。イギリスがミャンマーの総人口の69%を占めるビルマ族と少数民族との不和を煽ることにより、分割統治行ってきたことに対するその確執は、相当根深いと言わざるを得ないのだ。特にカレン族はイギリス占領下で”警察”を担わされていたので、ミャンマーにとってカレン族は敵そのものであり、その遺恨は簡単に消えるものではない。

ここでもうひとつ興味深い映画を紹介したいと思う。「The lady アウンサンスーチー 引き裂かれた愛」というタイトルの映画。民主化運動の指導者で、1991年にアジア人女性として初のノーベル平和賞も受賞したアウンサンスーチー氏※の半生を描くヒューマンドラマで、軍事政権との過酷な戦いや民衆を魅了する強さ、イギリス人の夫マイケル・アリスとの愛情などが描かれている。これも“物語”として良く出来た作品で、涙なくしては観られない名作。そしてまた、軍事政権の残虐行為に怒りや嫌悪感が沸いてくる。やはり軍事政権は悪玉で、アウンサンスーチーは善玉だと感じるだろう。しかしこの映画、製作はイギリス(正確にはフランスとの合作)の会社。今までの民族対立の原因を作った国が製作した映画で、アウンサンスーチー氏自身もイギリス人と結婚し、イギリスに嫁いでいるのだ。やはりイギリス側からの目線、イギリスの都合で描かれているとしたら感じ方も少し変わるのではないだろうか。

まだ完全ではないとは言え、軍事政権から民主国家に変貌を開始し、アメリカをはじめとする先進国からの経済制裁も解かれ、世界中から投資が行われるようになった「アジア最後のフロンティア」ミャンマーという国が、本当の意味で安定するにはどうしたらよいのだろうか。民主化の象徴、アウンサンスーチー氏が政権を担うようになっても「何も変わっていない」のではないだろうか。ロヒンギャ問題しかり、SNSで現政権や議員を批判した罪で相次いで一般国民が逮捕されるなど、軍事政権時代と一体何が変わったというのだろう。これらの問題に対して何も発言をしないアウンサンスーチー氏に批判が集まり、軍事政権最後の大統領だったテインセイン氏※が、ミャンマー民主化の礎を築いた功績として、東アジア・ASEAN経済研究センターから「平城遷都1300年記念アジアコスモポリタン賞」を受賞するなど、まるで善玉、悪玉が入れ替わっただけなのかと言われかねない有様である。

とかく世界中で起こる争いの要因のほとんどは、民族対立であり宗教対立にあると思う。ミャンマーという国はその辺りが一番複雑で、135とも言われる少数民族がいて、それぞれ仏教、キリスト教、イスラム教と違う宗教を信仰している。また、カレン族だけではなく、同じ民族同士であっても異教徒に別れ、それによる争いも起こっている。アウンサンスーチー氏と現与党が、民族対立、宗教対立を収めてこの国を安定発展させていけるのか、世界中が注目する中で彼女の真価が問われていると想う。

【続く】

※ミャンマー人の名前は名だけで姓はありません。従ってあえて氏名に[・]は入れていません。

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